りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

播磨国妖綺譚(上田早夕里)

『華竜の宮』や『ブラック・アゲート』などのハードSFでデビューした著者ですが、近年はジャンルにこだわらずさまざまな分野の作品を書くようになっています。本書は室町時代陰陽師の兄弟を主人公に据えた、完成度の高い作品です。著者もこの作品が気に入ったようで、続巻も出ています。楽しみなシリーズが生まれました。

 

「井戸と、一つ火」

安倍晴明のライバルとして描かれることの多い平安期の陰陽師蘆屋道満は、故郷の播磨国で晩年を過ごしたとのこと。道満の血を引く律秀・呂秀の兄弟は、庶民を相手に病を診て、薬を方じ、祈祷によって物の怪を退ける法師陰陽師ですが、2人の役割は異なっています。兄の律秀は強い法力と薬学の知識を有していますが、実際に物の怪が見えているのは弟の呂秀だけ。かつて蘆屋道満に仕えていた鬼姿の式神が現れ、呂秀に向かって新しい主人になって欲しいと依頼するのですが・・。新たな陰陽師物語の誕生です。

 

二人静

若い猿楽師の腰痛の原因は死霊でした。亡くなった名優の霊が、かつての相方と自分の後継者を思い遣る気持ちが妄執となって残ったのでしょうか。しかし妄執を断ち切れなかったのは、亡くなった名優の死を惜しむ相方の方だったようです。呂秀の式神となった「あきつ鬼」の勝手な振る舞いが少々気にかかるのですが、呂秀は使いこなしていけるのでしょうか。

 

「都人」

都の陰陽寮から星見のために播磨を訪れた天文方の有傅は、山で白蛇から救ってくれた律秀を京へと招きます。廣峯神社禰宜である父の道延も上京を勧めるのですが、律秀の心は決まっているようです。

 

「白狗山彦」

兄弟を訪ねて来た山人は、山の守り神でした。母を失った幼女かえでを憐れに思い、彼女を守り育てるために寿命を与えた女性の命が尽きようとしているというのです。山神はかえでを人界に戻して教育を受けさせたというのですが、幼女は両親と慕っていた者たちを失うことに耐えられるのでしょうか。あきつ鬼のやり口は無茶苦茶ですが、意外と人心に通じているようです。

 

「八島の亡霊」

播磨の海上に現れる武者姿の物の怪は、250年もの昔に源平合戦で敗れた平氏の一族のようです。那須与一に射殺された伊勢義盛の霊は、自分たちを主役とする猿楽を作って欲しいと言うのです。修羅道に堕ちた武人の霊としては勝手な言い分にも聞こえるのですが、もちろん兄弟は依頼を受け入れます。「二人静」の猿楽一座に知り合いもいますしね。

 

「光るもの」

虫害で弱った梨樹を救って欲しいと依頼にきたのは、並んで立つ桜樹の精でした。木の種類は違っても兄弟のような関係なのでしょう。しかし律秀の薬学知識は樹木にまで及ぶのでしょうか。

 

2024/3