りぼんの読書ノート

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パワー(ナオミ・オルダーマン)

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世界的に蔓延したホルモン異常によって、男女の力関係が逆転。世界中のほとんどの女性が、手から強力な電流を発する力を得たのです。その時世界では何が起こるのでしょう。 

 

里親から性的虐待を受けていた混血少女アリーは、「内なる声」に導かれるままイヴと名乗って宗教的指導者となります。キリストではなくマリアに、モーセではなくミリアムに、ムハンマドではなくファティマに、ブッダではなくターラーに目を向けよというイヴの教えは、不幸な女性たちの信奉を集めていくのです。 

 

目の前で母を殺されたイギリスのギャングの娘ロクシーは、世界最大のパワーを有する戦士としてイヴに合流。アメリカの女性市長マーゴットは、不安定な娘のパワーを案じつつも能力を隠して政界で権力を拡大。そして世界各地で虐げられてきた女性による反乱が起こるのです。中東やアフリカで政権が覆っていく中で、残虐な女性が独裁者として男性の虐待を行うケースも登場。女性たちに寄り添う報道を行ってきた男性ジャーナリストのトゥンデは、その国で命の危険にさらされて恐怖を覚えます。しかしこれは、これまですべての女性たちが感じてきた恐怖にほかなりません。 

 

本書は、女性が力を得た社会が平和になるなどという御伽噺ではありません。何千年にもわたって女性が恐れてきた男性社会の残酷さに対する怒りの激しさを、男性に感じさせるための小説なのでしょう。そして女性たちもまた戦争を起こし、男性からの反逆も相まって、世界は終末へと突き進んでいくのですが・・。 

 

トランプ大統領誕生後に、マーガレットアトウッドが描いたディストピア小説侍女の物語』が再びベストセラーとなりました。彼女から直接指導を受けたという著者が築き上げた世界は鮮烈であり、怒りに満ちているのです。女性はもちろん、男性も読むべき作品でしょう。 

 

2020/1