りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

だから荒野(桐野夏生)

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「家族」とは耕しようもない「荒野」なのか。手をかける価値のある「沃野」なのか。「荒野」を「沃野」へと変容させることは可能なのか。夫や息子たちに軽んじられながら家庭を支えてきた主婦の朋美は、46歳の誕生日についに反旗を翻します。憤然とレストランの席を蹴って、そのまま家出を決行するのです。夫の愛車を運転して高速道路を西へと向かう朋美を待っているものは何なのでしょう。

中盤までは、世間知らずの中年主婦の「ビルドゥングス・ロマン」。妻に家出されても全く反省せず懲りない夫との対比で、物語がテンポよく進んでいきます。家を出た妻は旅先で試練に会い、妻に去られた夫は窮地に追い込まれていく・・あたりまでは、妙にリアルで達筆ですが、まぁよくある展開。

ところが、この後の締め方が著者の面目躍如・・と思っていたところで、スカされてしまいました。長崎原爆を体験した語り部の老人を登場させたところから、物語は変調。長崎に向かった理由であった昔の恋人とは出会うことなく、家出の顛末は竜頭蛇尾状態。

反原爆に人生を賭けた老人の執念だけは伝わってきたものの、読者が桐野さんに期待しているものは違いますよね。妻も夫も、「もっと深くまで堕ちてドロドロになってからの再生」でないと、物語の迫力も説得力も不足していますし、まして中途半端な反原発論などは要らないのです。

個人的に一番ツボに来たのは、母に出て行かれた大学生の息子が恋人のところに入り浸ろうとして、「甘えるんじゃない」と振られたエピソードです。恋人をママ代わりに使って身の回りの世話をしてもらおうなんて、100年早い! ダメな父親は、ダメな息子を再生産してしまうのですね。

2014/7