完璧な容貌を持つ絶世の美女であった甲斐子は、完全さが不幸を招くことに気づいて、程よいブスへの整形を依頼します。一方で程よいブスであった阿倍子は、ほとんど考えもなく美女へと整形。要するに、甲斐子と阿倍子は、整形によって容貌を交換したようなもの。
それだけでは済みません。容貌の変化は、精神の変化をも招くのです。甲斐子は、孤高の美女としての精神構造を捨て去り、自然体で男性に媚びるようになっていくのですが、こちらは意識的な変化。実際に、「男性に媚びる程よいブス」は、モテるのです。一方の阿倍子は、美女としての意識は中途半端にしか身に着かないまま、整形が暴かれることを怖れるようになっていきます。このあたりが、阿倍子の「精神的な死」なのでしょう。
しかし甲斐子の選んだ道は、やはり荒野でした。男性社会の中で容易な行き方とは、男性の価値観によって生かされるということ。夫の浮気を疑って嫉妬に狂う甲斐子の姿は、もはや自尊心すら失ったかのよう。それでもそれは自ら飛び込んだ荒野なのであり、甲斐子が後悔することはないのでしょう。一方の阿倍子には、聖書のような惨劇が訪れてしまうのでしょうか。
変身願望の虚構というシリアスな題材を、シリアスな物語をモチーフとしながら、ユーモアたっぷりに描いた作品です。
2016/3