当時の支配者は、女帝持統。実子・草壁皇子を失い孫の軽皇子(後の文武天皇)に皇位を継がせようとする一方で、亡夫・天武天皇の遺志を継いで藤原京建設という大業に乗り出します。しかしそれは、今まで自由民であった山の民にも、支配の輪を広げていく過程でもあったのです。彼女を補佐して律令制を整えていくのは藤原不比等であり、詩で彼女の心を慰める役割を担うのが柿本人麻呂。
前半は、圧倒的武力を誇る大和朝廷に対して、山の民を率いてゲリラ戦を挑む役小角の姿が描かれます。このあたりは、まだ普通の歴史小説。ところが後半になると両者の闘いはヒートアップしていき、ほとんど「伝奇の世界」に入り込んでしまう。小角が蔵王権現を顕現させると、対する持統はアマテラスを召喚。天地のはじまりにまで遡る戦いは、どのように決着がつくのでしょうか。
文庫版の解説を記した大沢在昌氏は、「南方や大陸からの渡来人を多く含んでいた古代日本が、単一民族であるかのようになっていく過程に興味がある」という主旨のことを書いていました。仏教が大きな役割を果たしたことは間違いないと思いますが、本書は少々やりすぎですね。まあ、役小角伝説との整合性を取ろうとしたということなのでしょうが・・。
2016/3