りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

日暮れまでに(マイケル・カニンガム)

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マンハッタンの美術商を営む40代のピーターは、同年代の妻レベッカと営んできた「そこそこ幸せ」な生活が色褪せつつあるように感じてきています。

成功している同業者が死病に取り付かれて引退すると聞いて「老い」を意識しはじめたこと。両親と離れて西海岸に住む娘との関係を改善できないこと。中でも最大の問題は、ドラッグ中毒者である妻の弟ミジーと当分の間、同居しなくてはならないこと。

ピーターの悩みは、必要以上に弟の世話を焼く、妻に対する嫉妬ではありません。決して同性愛者ではないとは言いながら、強烈な魅力を放つ若いミジーの存在を、彼自身が強く意識してしまうからなのです。ミジーがドラッグをやめていないことを知り、さらにはミジーからキスされて、ピーターの悩みは頂点に達してしまうのですが・・。

しかし本書のテーマはめぐりあう時間たちこの世の果ての家とは異なり、「同性愛」ではありません。あくまでも「日暮れ時」を迎えた夫婦関係の物語なのです。妻レベッカは、鋳造されたまま変化することのないガラティアでも、マネによって永遠の聖性を与えられた娼婦オランピアでもないと気付いたピーターは、妻に対して正直に向き合うことを決意するのですが・・。

ジョイス、マン、ブロンテ、メルヴィルらの文学世界を取り込む手法は悪くありませんし、完成度も低くはないのですが、ニューヨークのスタイリッシュな生活というものに違和感があって共感しにくいのが難点です。

2014/7