りぼんの読書ノート

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トーイン(キアラン・カーソン)

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琥珀捕りの著者であるベルファスト出身の詩人が語り直した、古代アイルランド伝説の英雄譚は、荒々しい息吹に満ちています。古代から伝わる物語は、放置され、忘れられ、下手に手を入れられて荒れ果てていたものの、「廃墟ではなく遺跡だ」と、著者は語っているのです。

おそらくアイルランド中部にあったコナハト国の女王メーヴが、寝物語で夫と財産自慢をしたのが発端でした。王が所有する偉大な雄牛フィンヴェナハに匹敵するのは、アルスター国クアルンゲにいる褐色の雄牛のみ。女王メーヴは雄牛を手に入れるべく、アイルランド全土から大軍勢を召集し、アルスターに迫ります。

ところがアルスターの戦士たちは呪いのせいで戦うことができず、全ては17歳の少年クー・フリンに託されたのです。しかし、この少年はただものではありませんでした。「ねじり首環」という技で怪物のような図型に変身し、「「ガイ・ボルガ」という必殺の槍を使って、何千人もの兵士を倒してしまうのですから。

クライマックスは、ようやく登場した好敵手、幼馴染のフェル・ディアズとの二日がかりの決闘シーン。互いに呼びかけ合い、休息を取りつつ、おもむろに戦闘を再開する場面の繰り返しは、心地よい音楽のよう。『イリアス』の「アキレスとヘクトールの対決」や、『古事記』の「建御雷神と建御名方神の力比べ」を思わせてくれます。

さて、クー・フリンによってアルスター侵略を断念せざるを得なかったメーヴェでしたが、クアルンゲの雄牛を手に入れることはできました。エピローグのような場所で雄牛同士の戦いの様子が記されているのですが、こちらも大迫力です。スケールの大きさとナンセンスさが同居する、神話的物語でした。

2015/12