りぼんの読書ノート

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ゼンデギ(グレッグ・イーガン)

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ゼンデギとはイラン語で「人生」のこと。現代ハードSFの第一人者が、現代から近未来のイランを舞台にして、仮想現実と仮想人格の可能性を描いた作品です。

第1部は現代。というより、2012年が舞台ですから、ちょっと前のこと。オーストラリア人記者のマーティンは、イランで歴史的な政権交代の場に居合わせ、新しい技術が人々を解放に導く様子を目にすることになります。実際には、2013年のイラン総選挙では、保守派が圧勝したのですが。マーティンは、解放運動の中で知り合ったイラン人女性と結婚して、息子をもうけます。

第2部は15年後。事故で妻を失い、自らも死病に犯されていることを知ったマーティンは、残される幼い息子を案じ、妻の遠縁にあたる女性科学者ナシムと接触します。アメリカで脳の神経回路地図作成を試みていたナシムは、改革後のイランに戻ってきた後、仮想現実を舞台にしたゲーム会社「ゼンデギ」でコンピュータ部門を率いていたのです。

SF世界には人格をまるごとアップロードする物語などゴロゴロしていますが、それは現存している技術の延長線上で可能なことなのでしょうか。著者は、「サイドローディング」という、脳をモジュール化してパターンを模倣する方式を提案しています。死を前にしたマーティンが完成した仮想人格をテストする場面が、高度なチューリング・テストに思えてしまったのは、読者サイドの問題でしょうか。

ただし、近未来の部分を含めて、徹頭徹尾リアリティを感じさせてくれる作品であることは間違いありません。そういえば、「アラビアン・ナイトの世界」が仮想現実の世界と相性がいいことは、複成王子(ハンヌ・ライアニエミ)で読んだばかりでした。

2015/12