りぼんの読書ノート

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ビルマ・アヘン王国潜入記(高野秀行)

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「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、それを面白おかしく書く」ことをモットーにしている、早稲田大学探検部出身のレポートだけのことはあります。世界最大のアヘン生産地にして反政府ゲリラが支配するビルマのワ州に潜入し、辺境の村で半年間、農民たちと一緒にケシ栽培をしたというのですから。

アヘンやヘロインの原料となるケシ栽培といっても農民の仕事は普通の農業と変わりありません。ひたすら雑草を抜いて、花実を育て上げるだけのこと。満足に言葉も通じない中で、質素な農民の生活に入り込み、手伝いを繰り返す毎日。

カンボジア人と同じクメールで起源を持ちながら、ビルマ人やタイ人や中国人に追われて国境の山中に取り残された民族。イギリスの分割統治政策や中国の影響を受けたビルマ共産党の活動によって中央のビルマ人と融和する機会を持つことなく、有史以来国家の管轄下にあったことがない民族。ごく最近まで首狩り族として怖れられていた民族。それでも人の心に変わりはないようで、著者は村人から受け入れられていきます。

それでも外部世界の情報から遮断されている「秘境の日常」は、やはり普通ではありません。世界の中心は「自分の村」であり、自分たちが少数民族であることすら知りません。知っている外国といえば隣接する中国とタイだけ。自分たちの言葉が「ワ語の中でもさらに方言」にすぎないことにも気づいていないのです。そして若者が戦争に狩りだされることすら「日常の一部」なのです。

最後にはアヘン中毒にまでなってしまったというエピソードまで紹介されていますが、あえて「森よりも木を見る」著者による、迫真のインサイド・レポートです。本書が書かれた1990年代後半から十数年たっていますが、この地域はミャンマーと中国の間にある自治州として今でも政治的な秘境であり続けているようです。ケシ栽培もおそらく・・。

2013/11