りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ハピネス(桐野夏生)

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3歳になる娘・花奈とベイエリアタワーマンションに住むヤンママの有紗は、アメリカに単身赴任中の夫から離婚を迫られています。娘の幼稚園お受験どころか、義父母からもマンション賃貸料負担が重いとこぼされ、「地に足をつけていく」よう苦言を呈される状態。しかも夫が離婚を言い出した理由は、有紗の過去にあったのです。

それでも、有紗が唯一つきあっている「ママ友」たちには相談などできません。そこは、マンションの家賃や出身学校や趣味やセンスなどの微妙な差によって生じた上下関係に神経を尖らせる、小さなコミュニティー。夫婦仲や経済の問題などを愚痴ろうものなら、たちまち序列が下がったり、仲間外れにされかねません。

しかし、問題を抱えているのは有紗だけではありませんでした。美人ということで仲間に入れてもらっているものの下町暮らしを見下されている洋子が、裕福で洗練されたリーダー格のママの夫と不倫をしているというのですから。やがて娘たちの幼稚園お受験の結果が出始めた頃、ママ友グループは破局を迎えます。果たして有紗は、夫との関係にどう決着をつけるのでしょうか。そして「地に足をつけた生活」は可能なのでしょうか。

この作品が連載されたのは、若い婚女性を対象とする雑誌「VERY」。かつて「シロガネーゼ」という言葉を生み出しており、経済力ある男性と結婚して贅沢で余裕のある生活の満喫を理想とする世界観に基づいているようです。それを理解したうえで読むと、本書の凄さがわかります。掲載誌が追求する「ハピネス」の理想が、見栄と虚飾の世界であって、砂上の楼閣にすぎないと嘲笑っているのですから。

ある者は子育ての不安と孤独さから逃れるために、ある者は子どもの友だち作りのために参加するであろう母親のコミュニティーが、「幸せ較べ」と「あら捜し」の場に変質してしまう怖さは、どんな階層においてもあるのでしょうが、増幅させてしまってはいけません。

2013/11