りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

大福三つ巴(田牧大和)

江戸・下谷の小さな版元である宝来堂は、美人の寡婦で女主の夕、家族を亡くして夕に引き取られた姪の小春姪の小春、摺師と彫師を兼ねる政の3人だけ。もっぱら小春が描く名所画を摺り売っているのですが、頼まれ仕事も請け負っています。しかし宝来堂で板木づくりと摺りを請け負っている、なじみの番付屋・長助が引き起こした騒動に巻き込まれてしまいました。長助が「大福番付」のランキングを節操なく変更したことで、怒鳴り込まれてしまったのです。騒動を治めるべく、自分たちで番付を作り直して出すことにするのですが・・。

 

「手に取ったお客さんも、番付に載った店も、お祭りのように盛り上がって楽しめる」番付を作るには、いったいどうしたらよいのでしょう。皆で知恵を絞り、工夫を重ねてたどりついたのは、「大福合せ」を開くこと。名だたる菓子屋に集まってもらい、試食した人たちの投票で順位をつけようというのですが、それもなかなかの難問です。現代のミシュランだって、食べログだって、評価の公正さを維持するには苦労しているのですから。弁舌さわやかで気風の良い夕の才覚や、料理人だった父譲りで味を見極める能力を持つ小春のコンビは、難局を乗り切れるのでしょうか。

 

京菓子店の熟練の技が光る上品な大福、江戸職人の技と覚悟が生み出した大福、魚河岸の男衆とともに育ってきた大福など、読んでいると食べたくなってしまいます。もはや時代小説の大家となった著者の作品であり、もちろんストーリーの捻りもテンポも熟練の技。そういえば著者は江戸の菓子店の物語をシリーズで書いていますね。未読でしたがそちらも読んでみましょう。

 

2024/5