りぼんの読書ノート

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夢みる宝石(シオドア・スタージョン)

20世紀半ばのSF興隆期に「ひとりで1ジャンル」と言われた著者が、1950年に発表した最初の長編です。本書に先立つ先行訳はヒットしなかったのでしょうか。はじめて聞く作品でした。もっとも当時スタージョンはマニアックすぎるとされ、彼の再評価は2000年代になってからなので、しかたありません。

 

語り手は養父母から虐待されて家出した孤児のホーティ。彼がもぐりこんだのは、普通でない人間たちが集うカーニヴァル。直前に読んだブラッドベリの名作『何かが道をやってくる』を思わせる展開ですが、本書は抒情的な作品ではありません。こちらのカーニヴァルは「マジでヤバイ」のです。背景にあるのは、不思議な結晶体が見る夢が現実化されて人や動物や植物が生まれる・・という謎めいたファンタジーですが、ここで白けてしまうようではスタージョンを読む資格はありません。この設定を信じることで、著者独特の幻想冒険譚に入り込めるわけです。

 

そもそもこのカーニヴァルは、不思議な水晶を長年研究してきた団長の「人食い」モネートルが生み出したものでした。そしてホーティも実は水晶によって生み出された者であり、水晶と会話できる能力を有していました。水晶を恫喝することしかできないモネートルに、この事実を知られたら実験材料にされてしまう。彼と似た境遇の小人の美女ジーナは、ホーティを守ろうとするのですが・・。

 

表面上は「超能力を隠し持つ少年が成長して危機を乗り越えヒロインたちを救う」という王道冒険小説のようですが、本書むしろ王道青春小説のように思えます。疎外感を抱く少年が信頼できる友人たちの助力を得て、自らのアイデンティティを築き上げ、居場所を見つけ出す物語なのですから。そこにスタージョン特有のマニアックな味付けがされていると思えば良いのでしょう。

 

2024/9