りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

死の鳥(ハーラン・エリスン)

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先に読んだヒトラーの描いた薔薇は、著者の日本版オリジナル短編集としては3冊目ですが、第1短編集は40年も前とのことなので、本書が「再発見」後の実質的な第1短編集といえるでしょう。とんでもない奇想と激しい情熱という点では、こちらの方が上ですね。

「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」
時間厳守が絶対的な意味を持つディストピア社会で、時間を司る者に叛旗を翻した「ハーレクイン=道化」は結局のところ敗れ去ってしまいます。しかし彼の悪ふざけ的な行為は一矢を報いていたのでしょう。この後に変革は起こるのでしょうか。

「竜討つものにまぼろしを」
死の瞬間に天国に召喚された男が、そこに留まる資格を得るためには王道RPG的な冒険を成功させなければならないというのです。果たして・・。

「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
地球を支配したコンピュータは人類を憎悪し、たった5人を残して滅亡させてしまいます。残された5人は不死性を与えられ、永遠に地獄的世界で苦しむ運命にあったのですが・・。この結末は悲惨すぎます。

「プリティ・マギー・マネーデイズ」
ラスベガスのスロットマシンに憑依した女性の魂が、気に入った男性に大当たりを連続させるのですが、カジノは放置してくれませんよね。スロットが処分される前に起こったことは、悲劇なのかハッピーエンドなのか判断できません。

「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
未来人によって召喚された切り裂きジャックが、未来世界を大混乱に陥れます。そもそも彼を召喚した理由も謎なのですが、不思議と切り裂きジャックに肩入れしたくなってしまいます。

「死の鳥」
かつて地球の所有を争った宇宙種族の「神」と「蛇」に対して下った審判は、「神」の勝利でした。しかし幼児的な管理で人類を滅ぼした「神」に対して、「蛇」の種族がひとり残した監視者は、ある決断を迫られるのでした。4章の設問と2つの挿話を含む難解な構成で、神話の再構成を試みた作品です。

「鞭打たれた犬たちのうめき」
ビルの中庭で行われた殺人で、大勢の目撃者は全て傍観者でしかなかったのです。しかしその傍観者たちも何者かに見られているとしたら、話は変わってしまいます。

「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」
タイトルの座標はホワイトハウスの場所であり、ランゲルハンス島とは膵臓内部にある島状の細胞群。ミクロサイズの分身を自分の体内に突入させる物語なのですが、探しているのは魂であるようです。

「ジェフティは五つ」
5歳のまま年を取らない友人の周囲には特異な磁場が存在するようで、彼の周囲には古き良きアメリカが残っていたのです。しかし彼を現実世界に連れ出す時には、細心の注意が必要だったのです。

「ソフト・モンキー」
ギャングの殺人を目撃したホームレスの黒人女性が生き延びる物語。SF要素はないのですが、弱者をいたぶる強者への怒りが溢れています。

2018/12