りぼんの読書ノート

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がいなもん 松浦武四郎一代(河治和香)

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昨年は北海道命名150年にあたり、その名付け親となった松浦武四郎の生誕200年にあたっていたとのこと。本書は、それを記念して描かれた作品です。今年7月には、本書が原作というわけではありませんが、彼を主人公とするNHKドラマ「永遠のニシパ」も放映されました。

 

伝記小説なので、基本的な史実はかなり丁寧になぞられているようです。紀州藩地侍家の息子として伊勢松坂に生まれた武四郎が、早くから外の世界に興味を抱いて16歳で家出。一時は連れ戻されたものの放浪壁は止みがたく、日本全国を歩き回る冒険家となって、蝦夷地や樺太にまでも足を伸ばします。

 

武四郎が、蝦夷地の沿岸部に留まった商人や測量家たちと一線を画す点は、内陸部まで入り込んでアイヌの人々と深く交流したこと。アイヌの風俗や地名を記すにとどまらず、和人による虐待に警鐘を鳴らし、アイヌの人々からも慕われた武四郎は、当時としてはかなりのヒューマニストですね。幕末の異人たちとも交流が深く、明治初期には開拓判官に任じられますが、彼の政策が用いられることはなく、ほどなく辞職。その後は「馬角斎(ばかくさい)」なる雅号を名乗ったとのこと。

 

古物コレクションに囲まれて往生する「武四郎涅槃図」を、晩年親交の深かった河鍋暁斎に描かせたほどの蒐集家でもあり、勾玉や管玉を多数つなげた大首飾りや、全国の有名社寺の古材から組み上げた「一畳敷」でも知られています。本書では、数奇な運命をたどるアイヌ娘との心の交流も描かれますが、これは著者の創作なのでしょう。

 

2019/8