りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

東天の獅子 第4巻(夢枕獏)

イメージ 1

孤高の武術家・武田惣角西郷四郎に語ったのは、琉球での壮絶な修行の日々でした。秘術「御式内」を見せずに琉球唐手と闘い、その真髄を会得して去っていった惣角との闘いを望む唐手家が「梟」の正体だったのですが、やはり「御式内」を継承する四郎が代わりに闘って勝利を収めます。

一方で警視庁武術指南役の中村半助は、久留米時代に敗れた佐村正明に再挑戦を挑み、佐村の必殺技「亀の首取り」を耐えて勝利。次の相手として講道館の横山を望みます。

そして始まった二度目の警視庁武術試合。講道館からは鬼横山が、双方の期待通り中村半助と対戦。西郷四郎琉球唐手最強の使い手との対戦が決まりますが、四郎の心中には闘うことに対する迷いと恐怖心が生まれていました。このあたりは、後に講道館を去ることになる西郷四郎の心中に迫る試みなのでしょう。

個々の闘いに関する迫真の描写は「中村vs佐村」までで、その後の試合はかなり淡々と描かれています。さすがに「壮絶で凄惨な描写」にも限度があるのでしょうね。^^;

4部作の第1部に相当する「天の巻」は、西郷四郎前田光世少年の出会いで終わります。エピローグで綴られる、加納、西郷、横山、中村、大竹、武田らの享年と死因から読者が読みとるべきものは、時の権力者にも近づいて武術界に革命をもたらした加納治五郎と、生涯一部術家で通した男たちとの、それぞれ異なる生き様なのかもしれません。

続篇の「地の巻」はいよいよ、アメリカ・ブラジルを転戦して生涯不敗のまま異国で没し、異国に柔道の礎を築いた前田光世の物語となるのでしょうか。多忙な著者のことですから、いつ書き上がるのかはわからないのですが・・。

最後に著者からの「柔道」へのメッセージを記しておきましょう。「柔道には歴史の中に消えていった多くの古流柔術に対する責任があり、世界に広まるためにJUDOとなってゆくのはしかたがないとしても、それとは別に当時の柔術に近いルールでの講道館での大会を開催していただきたい。当然それはオリンピックよりも上位の概念であり、そうでないと日本柔術の多くの技や形、精神までが滅んでしまうのではないか」との。

2012/5