りぼんの読書ノート

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アイアン・ハウス(ジョン・ハート)

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デビュー作キングの死以来、家族愛をテーマにして上質なミステリを書き続けている
著者の最新作も期待にたがわぬ力作でした。

ギャングの殺し屋マイケルは、恋人エレナの妊娠を機に組織の脱退を誓います。
孤児だったマイケルの育ての親ともいえるボスの了承は得たものの、後継者や仲間たちは
マイケルを許さず、ボスの死後、マイケル本人のみならず、恋人エレナや弟ジュリアンを
狙い始めるのでした。かつて苛酷な孤児院でともに育ったものの、ひとりだけ上院議員
養子になったジュリアンのことは、誰も知らないはずだったのですが・・。

マイケルはジュリアンを守るために、23年ぶりに弟と再会を果たしますが、作家として
成功していた弟は深く心を病んでいました。それは、孤児院時代に経験した凄惨な過去が
甦ったためなのでしょうか。果たして上院議員の敷地からかつてジュリアンを苛めていた
男の死体が発見されます。

そしてジュリアンを養子に貰いうけ、彼に変わらぬ愛情を注ぐ上院議員の妻アビゲイル
存在があまりにも謎めいているのです。既に廃業した孤児院「アイアン・ハウス」を訪れ、
かつての院長を問い詰めたマイケルの前に、思いも寄らない謎と真実が広がっていきます。
全ては、マイケルとジュリアンの出生の秘密に繋がっていたのでした。

著者は「家庭崩壊は豊かな文学を生む土壌」と述べていますが、激しい振幅で愛情と憎悪が
ぶつかり合う「家族」という存在は、不思議なもの。
ジュリアンの書く児童小説が「あまりにもかすかな希望の光が見えるように、黒々とした
深い闇を描いている」というのは、著者の作品の本質を言い表した言葉のように思えます。

2012/5