りぼんの読書ノート

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IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅(ロマン・プエルトラス)

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この長いタイトルに全てが込められている、フランス発のユーモア小説です。「サドゥー」とは、ヒンズー教の苦行者のことですが、本書の主人公ジャタシャトルー(通称アジャ)は、宗教的にはかなりグチャグチャのようです。

1泊2日の予定でパリにやってきたアジャの行先は大手家具店のIKEA。最新型の「針ベッド(!?)」を特価で購入して高く転売するのが目的。しかし、彼が持っているのは粗悪な100ユーロ紙幣のニセ札1枚だけ。運賃を騙されてタダ乗りされたタクシー運転手は、執念深くアジャを付け狙うことになります。しかも彼はロマなので各地に協力者がいるんですね。

ホテル代もないのでIKEAに潜んで一夜を明かそうとしたアジャが、夜中に人の気配を感じてタンスに隠れたのが冒険の始まり。アジャの入ったタンスは、イギリスに送られてしまうのです。さらに彼は、スペイン、イタリア、リビアを回って、パリに戻ってくることになるのですが、その間に彼の運命も、人生観も変わってしまうのでした。

彼よりも悲惨な境遇の人々がいることを知ったのは、イギリスを追い出されるスーダン人の不法移民と知り合ったから。作家になろうと思ったのは、空調の利いた飛行機の貨物室の中でした。手元に紙がなかったので、着ていた服に文章を書いてしまうのは、笑う所でしょうか。そして最後には、初日にIKEAで出会ったフランス人女性と再会を果たすことができるのです。

作家となったアジャの信条は、「小説はハッピーエンドでなくてはならない」ということ。きっとそれは、著者の信条でもあるのでしょう。こんなとんでもない主人公に、とんでもない冒険をさせておいて、最後のテーマが「愛」なのですからね。パロディやブラック・ユーモアに溢れ、アジア人や不法移民やロマも優しい視点で描いた、楽しい作品です。

2015/9