りぼんの読書ノート

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名画を読み解くアトリビュート(木村三郎)

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西洋の古典絵画に登場する「アトリビュート」とは、データ・ベースの属性ではありません。登場人物の属性として描かれる小道具のことであり、むしろアトリビュートによって登場人物が誰なのかを示す役割を果たしています。本書はアトリビュートについて解説するとともに、アトリビュートから絵画を読み解く実例を示した入門書。

純潔を現わす「百合」とともに描かれる女性は聖母マリアですし、「棕櫚の葉」を持っていたら殉教者。ただし「車輪」があったら聖女カタリナとか、「目玉」なら聖女ルチア、「乳房」なら聖女アガタというのは、殉教の様子に即しすぎて生々しさを感じます。

ギリシャローマ神話の登場人物の場合は、もっとストレートです。「薔薇」がヴィーナス、「鹿や猟犬」がディアナ(アルテミス)、「オリーブ」がミネルヴァ(アテネ)、「葡萄」がバッカス、「白鳥」がレダ、「牛」がエウロパ、「鷲」がガニメデ、「壷」がパンドラ、「弓矢」がキューピッドなのですから。でも同じ「葡萄」がイエスの血だったりすることもあるから注意が必要。

おもしろかったのは「帽子」が自由の象徴ということ。古代ローマでは奴隷を解放する時に、神殿で奴隷の頭を剃り上げ帽子を与えるという儀式を行ったということから来ているそうです。ドラクロワの描いた自由の女神もフリュギア帽をかぶっていますね。

先月、クリュニー美術館の至宝である「貴婦人と一角獣タペストリ」を見てきました。「一角獣」が貴婦人、「ライオン」が勇者なのは当然として、数多く登場する「鎖に繋がれた猿」が悪徳のいましめ、「ウサギ」が多産を象徴していると知っていたら、もっと楽しめたはず。

現代社会にもアトリビュートは存在しています。四葉のクローバーは幸福の印ですし、ハートマークは愛情の表現。メッセージやラインで使われるスタンプなんかもそうですね。宗教的な意味合いは薄れたもののアトリビュートは健在なのです。

2013/10

貴婦人と一角獣展ポスター】
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