りぼんの読書ノート

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かたづの!(中島京子)

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中島さん初のファンタジー、しかも歴史ファンタジーですが、とにかく面白い。江戸時代を通じて唯一の「女大名」であった八戸南部氏の清心尼こと弥々(ねね)の物語を包み込むファンタジー世界が素晴らしいのです。

八戸南部氏が移封された遠野に伝わる伝承はカッパやザシキワラシだけでなく、「片角(かたづの)」という神様もいたそうです。そのご本体がカモシカのツノであることから、娘時代の弥々と一本角のカモシカとの出会いが発想されました。それは、西洋における「一角獣と貴婦人」の「遠野バージョン」にほかなりません。クリュニーのタピストリに描かれた貴婦人が、一角獣のみならず獅子やウサギや猿たちに囲まれているように、弥々は、片角のカモシカや河童やモモンガやネコに囲まれて立つのです。

さて、物語です。八戸南部氏の当主・直政の妻となった祢々を、次々と不幸が襲います。まずは夫・直政が、次いで嫡子の幼い久松が急死。これは、盛岡(三戸)本家の当主である叔父が、八戸を手に入れようと仕掛けた陰惨な陰謀のようなのですが、このままだとお家断絶は必至。

それに対して祢々は、自分が「女当主」として立つことを認めさせるのです。さらに、腹心と結婚させようとの悪巧みは尼となってしのぎ、2人の娘たちを嫁として奪おうとする仕掛けには辛うじて1人を残し、遠野への国替えは甘んじて受けるという、奇跡の対応。その陰には、「片角」たちの助けもあったのですね。非道な叔父の正体も、後に明らかにされます。

「だいじなのは、あきらめないこと」と「あらそわないこと」という祢々の生き方が、力強く、しかもほのぼのと描かれた作品です。成り行きで神になってしまったカモシカの素朴な語り口にも、好感が持てます。

2015/1