りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ほんとうの花を見せにきた(桜庭一樹)

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バンブーとは、植物性の吸血鬼。夜に生きて、空を飛び、生き物の血を吸い、老いる事なく、120年たつと白い花を咲かせて消滅する、竹から生まれた魔性の存在。人間との交流が許されていないバンブーが、こっそりと人間と心を通わせる連作小説集です。

「ちいさな焦げた顔」
ギャングの抗争で家族を殺された少年が、2人の心優しいバンブー青年に助けられて成長していく物語。かなりぶっ飛んだ設定ですが、「ヴァンパイアもの」ではよくある設定。人間よりも長いスパンで生きる存在の視点から人間の生涯を俯瞰することで、何が見えてくるのでしょう。この物語では、少年がバンブーを裏切ります。自分が年老いて記憶が薄れてきても、相手が当時のままというのは薄気味悪いものですが、そこは桜庭さんらしく決めてくれます。

「ほんとうの花を見せにきた」
第1話のラストに登場した少女バンブーが、死期を目前にして人間の少女と関係を持つ物語。ここで死にゆくのはバンブーのほうなのですが、人間とバンブーの視点が逆転しているわけではありません。成長するということは、忘却することなのでしょうか。人間という存在と、成長することのないバンブーとの比較が際立ちます。

「あなたが未来の国に行く」
前2話でチラッと登場してドライで冷酷な面を見せつけた、日本におけるバンブー組織を統べる少年王の物語。中国起源のバンブーの支族が、なぜ日本にやってきたのかという前日譚です。次代を担うはずだった優秀な姉が、人間によって奥地に追いやられていく中で弟に託した願いとは、新たな地で新たな生き方をして欲しいということだったのです。人間との交流に対する厳しい罰則は、ここから来ていたのですね。

ありきたりの「「ヴァンパイアもの」とは一味違う「バンブー」という存在は、「桜庭ワールド」の舞台として、ぴったりハマったようです。次作もあるかもしれませんね。

2015/1