りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

雨天炎天(村上春樹)

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1990年に出版された「辺境紀行」です。「ギリシャ編」と「トルコ編」からなっています。

ギリシャ編」では、ギリシャ正教の聖地アトス半島の断崖に沿って点在する修道院を巡って、ひたすら歩きまわります。険しい山道、厳しい天候、質素な食事、固い寝床、無愛想な修道士たち・・。いまどき女人禁制。厳しい滞在制約。もはや「旅行」ではなく「修行」です。ギリシャが意外と「山岳国家」であったことを思い出しました。

「トルコ編」では、辺鄙な黒海沿岸から、クルド民族問題を抱えるロシア・イラン・イラク・シリアの国境地帯にかけての地域を四輪駆動車で駆け回ります。多くは無愛想で稀に饒舌な兵隊、すぐに集まってくる子供たち、絨毯屋を紹介するホテルマン、そして羊、羊、羊・・。現在では、シリアとの国境はイスラム国との最前線になっている地域です。

村上さんの旅行記は、「異文化に対する観察」に満ちています。そしてそれは、日常の自分が属している世界との違いを見出すのみならず、自文化と異文化を相対化して「どちらが本当のリアル・ワールドなのだろう」と自問するという、深い地点まで到達する作業なのです。

ギリシャで「黴パンをおいしそうに食べる猫」を見て、「この猫はほかの世界を知らないのだ」としみじみ思うというクダリでは、ユニークな口調と裏腹に、露骨な比喩すら読み取れてしまいます。でも、もちろんそんな読み方は「誤読」なのでしょう。

猫といえば、両眼の色が違うというトルコの「ヴァン猫」に、一度お目にかかってみたいものです。

2015/1