りぼんの読書ノート

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クオ・ワディス(シェンキェーヴィチ)

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「クオ・ヴァディス」として映画化されていますので、そちらの呼び方のほうが馴染みがありますね。19世紀末、三帝国に分割されて地図から姿を消していたポーランドノーベル賞受賞作家による、古典的名作です。

暴君ネロの支配する享楽の都ローマ。奴隷や下層階級の間で静かに広まりつつあるキリスト教。物語は、青年貴族ウィキニウスと清らかな蛮族の王女リギアとの愛を通じて、対照的な2つのローマと、初期キリスト教の息吹を生き生きと描き出します。

登場人物も多彩です。「趣味の審判者」としてネロを導き、体制内改革を試みるペトロニウス。リギアを守り抜いて、最後には闘技場で奇跡を起こす怪力の巨人ウルスス。狡猾さで権力に取り入りながら、キリスト教の許しに触れて改心する哲学者キロン。そして、ローマへの伝道に全てを捧げた使徒パウロ使徒ペテロ。

高慢な青年貴族であったウィキニウスがリギアへの愛によってキリスト教に目覚め、パウロとペテロの説教を聴いて信仰に導かれるのを他所に、ネロは芸術のためと称してローマを焼き尽くす大火災を引き起こし、それをキリスト教徒の仕業として弾圧します。闘技場で、燃える十字架上で、次々と犠牲になっていくキリスト教徒。牢獄に閉じ込められたリギアの運命はいかに・・。

ネロの弾圧は、イエスの復活をその眼で見た使徒ペテロすら嘆かせるものでした。「主よ!主よ!あなたはこの世の支配権をなんという人物におあたえになったのです。いったいなぜこのような町にあなたの都を建てようとなさるのです・・」

しかし、信徒が消滅したローマを去ろうとしたペテロは路上で主イエスと出会います。「クオ・ヴァディス・ドミネ?(主よ、どこへ向かうのですか)」と尋ねたペテロに対し、「おまえが私の民を捨てるなら、私はローマへ行ってもう一度十字架にかかろう」と答える主イエス。感動の大奇跡! 迫力の大クライマックス!「古典」とは、現代でもなお輝きを失わない物語のことですね。

著者は、圧政に虐げられながらも、やがて多数派となって体制を変革するに至ったキリスト教徒に、祖国の姿を重ねています。三帝国による分割支配を脱した後にも、ポーランドには、ナチスの侵略、ソ連の支配という苦難が次々と襲い掛かったことを思うと、辛すぎるのですが・・。

塩野七生さんは『ローマ人の物語』で、キリスト教の不寛容さが、多様で寛大であったローマ的精神を滅ぼして「中世」をもたらした一因であると書いていますが、それはその後に大きく変容していった教会キリスト教のこととして理解しておきましょう。

2009/12