りぼんの読書ノート

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海底八幡宮(笙野頼子)

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自分が金毘羅であると目覚めてしまった著者に師ができました。その名は亜知海(アチメ)、原始の八幡。国を追われ、故郷を奪われ、来歴を消され、名前を奪われ、真実を消されて1500年。じわじわと囲まれて、存在しなかったことにされてしまった海洋華厳王国の逞しき精霊。

実母も、仕事上の「母」も失い、長年連れ添った飼い猫ドーラも15歳になって元気がない。訴訟するといって脅してくる偉い評論家もいるし、ネットで不毛な論争を仕掛けられもする。そんな悩みを亜知海に打ち明ける著者ですが、師のたどった運命こそ恐るべきもの。

亜知海は、かつて海幸彦(ホデリノミコト)でした。海に生きる自由民に祀られていたのに、山幸彦(ホオリノミコト=神武天皇の祖父)から攻められ、本拠地であった海宮(竜宮)も、ヒメ(豊玉媛)も、武器や祭器(釣針・潮盈珠・潮乾珠)も奪われ、しかも悪役にされてしまったのです。

亜知海は、かつて宇佐八幡でもありました。宇佐氏の守護神だったのに、大菩薩という仏教の号を与えられて大和朝廷に取り込まれ、いつしか鎮護国家・仏教守護の皇祖神として祀られることになってしまったのです。

それだけではありません。かつて神宮皇后が三韓征伐を行った時、斉明と中大兄皇子が白村江に軍勢を派遣した時、豊臣秀吉朝鮮出兵を行った時、近年では大東亜戦争へと日本軍を大動員した時に、兵士によって「八幡」の名を唱えられる「海外派兵の象徴」に貶められてしまったのです。

亜知海は言います。「支配とは税であり、世の中の理不尽は税を取るための呪いである」と。「権力に本質はなく空っぽの存在であり、だからこそ収税を通してオリジナルな本質を持っているものを際限なく奪いに来る『捕獲装置』である」と。著者は思うのです。「かつて亜知海を襲ったものが、今は自分を襲いにきている」と。

金毘羅よ! 亜知海の歴史を繰り返すことなく、師を越えて闘いを続けるのだ!

2009/12