りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/12 太陽を曳く馬(高村薫)

ちょっと早いけど、2009年の読書をクローズしてしまいましょう。
高村薫さんの4年ぶりの単行本は、『晴子情歌』、『新リア王』に続く、福澤一族3部作の完結編であると同時に、『マークスの山』、『照柿』、『レディ・ジョーカー』の合田雄一郎を登場させるという、まさに高村文学の総決算といえる重厚な作品でした。21世紀日本における「近代理性精神の崩壊状況」を認識論や宗教論を駆使して、まざまざと抉り出してくれました。

2位にあげた『通訳ダニエル・シュタイン』も、数奇な人物の生涯を追うことによって現代の宗教のあり方を、鋭く問いただした作品です。
1.太陽を曳く馬(高村薫)
都心の禅寺から飛び出した禅僧が、交通事故で死亡した事故の事件性を捜査する合田は、その禅僧が、かつての副住職・福澤彰之が寺に受け入れた元オウム信者の青年だったと知ります。4年前に彰之の息子・秋道が起こした残虐な殺人事件を担当していた合田は、一見淡々とした彰之の抱える心の闇に迫るのですが、その闇は時代全体を覆うものでした。著者の洞察力と論理展開に圧倒されました。彰之と合田が絡むような続編を早く読みたい!

2.通訳ダニエル・シュタイン(リュドミラ・ウリツカヤ)
ポーランドユダヤ人一家に生まれ、奇跡的にホロコーストを逃れてベラルーシに逃れ、同胞の命を救うためにユダヤ人であることを隠してゲシュタポの通訳となり、その後、カトリックに改宗してイスラエルに渡ったダニエル神父の生涯を、多数の人物の日記・書簡・会話などを通じて浮かび上がらせた小説です。モザイク的な生の断片が繋がって、個人レベルを超えて、宗教や歴史という「大きな物語」も、姿を現わしてくるのです。

3.わたしのなかのあなた(ジョディ・ピコー)
生まれながらに白血病の姉ケイトへのドナーの役割を担っていた妹アナ。13歳になったアナは姉への腎臓移植を拒み、弁護士を雇って両親に対する訴訟を起こすという行動に出ます。その真意も真相も悲しいものであり、悩み、苦しむ家族の物語だとわかってきますが、決して本書は「ソフィーの選択」ではありません。タイトルに二重の意味があることに気付かされるラストも素晴らしい。(邦題も、原題の「My Sister`s Keeper」も、です)


【ランク対象外(別格)】
クオ・ワディス(シェンキェーヴィチ)


2009/12/29記