りぼんの読書ノート

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四人組がいた。(高村薫)

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高村薫さんの作品ですが、犯罪者の抱える心の闇と正対する合田雄一郎も、心の闇と共存しているような福澤彰之も登場しません。本書は日本の鄙びた山村を舞台とするユーモア小説なのです。

村の集会所に集まって、日がな一日茶飲み話をしているのは、自称村一番の教養人の元村長、自称村一番の常識人の元助役、自称村一番のプレイボーイの郵便局長、そして自称小股の切れ上がった熟女のキクエ小母さんの「四人組」。しかし、ここは世界から隔絶されているわけではありません。日本の行政組織や郵便局は、彼らを放置してはくれないのです。もう一方で、彼らはタヌキやクマやイノシシなどの「森の住民」とも繋がっていました。

もちろん彼ら自身、純朴でもないし枯れてもいません。欲深くて、意地悪で、好奇心も強く、欲望は剥き出し。そんな彼らと、奇妙な訪問者たちが生み出す物語は、行進するキャベツ、光る豚、ケモノの保育士、子ダヌキのアイドルユニットなど、次第にシュールさを深めていきます。そして最後には、「死者不足」に悩む閻魔様とレディ・アミダまで登場。そもそも、この四人組は、いつの間にか不死の存在になっているのです。

四人組とは、もはや個人ではなく、「日本の田舎の老人」という「種」を代表する存在なのでしょう。地方も老人も切り捨てていく、現代日本のあり方に立ち向かうには、「神話」のようにシュールなブラックユーモアを必要としているのかもしれません。

2015/7