りぼんの読書ノート

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ガルヴェイアスの犬(ジョゼ・ルイス・ペイショット)

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ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスで生まれた著者が、出身地を舞台にして描いた不思議な物語は、1984年1月の夜に、巨大な「名のない物」が村に落下するところから始まります。強烈な硫黄臭や7日7晩に及ぶ豪雨に続く大干ばつが発生したものの、人間たちはすぐに忘れてしまい、普通の生活が再開されます。

本書に登場する15人ほどの村人たちは、50年以上仲違いをした兄を殺す決意を固める老人、夫の浮気相手に対して奇想天外な方法で復讐を試みる女、惨殺された犬を発見する若き女教師、軍人時代にギニアビサウで子どもをもうけた過去を持ち住民の噂に精通している郵便配達夫、新婚にして事故で全身麻痺となる若者、酒浸りの優しい神父など。彼らは狭い村での濃密な人間関係の中で生きています。

しかし犬たちは、硫黄臭に慣れることはありませんでした。そして村人たちも、8か月後に生まれた新生児の匂いを嗅いで、自分たちが慣れてしまっていた不快な臭いのことを思い出すのです。ひょっとしたら本書は、フィリップ・K・ディック『ユービック』のような物語だったのでしょうか。冒頭の事故で全員死亡したのに、それに気づかないで普通の暮らしを続けているというスリラーなのでしょうか。でも自分の故郷を、そんな不気味な状況に追い込むことなどしませんよね、普通は。

2019/2