りぼんの読書ノート

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鷲の巣(アンナ・カヴァン)

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ヘロイン中毒を抱え、一度ならず自殺を試み、精神病院に入院していたこともある著者の作品は、「不安や疎外感に満ちた強烈なビジョン」を特徴としています。カフカ的な色彩の濃い本書でも、不安定ながらも鋭い感性が溢れているのです。

突然失職して不本意な仕事にしがみついていた主人公にとって、かつて世話になったことがある「管理者」が最後の救い主でした。最後の持ち金を使って、管理者から指定された「鷲の巣」という土地にたどり着いたのですが、そこで迷宮のような世界に入り込んでしまいます。

一度だけ姿を見せた管理者はすぐに不在となり、使用人たちからは相手にされず、謎めいた屋敷の中で途方に暮れるばかり。そもそも駅から遠く隔てられた「鷲の巣」への道のりは、異界への旅立ちのようだったのです。そんな中で、秘書のペニーだけは彼に好意を示してくれるようなのですが、彼の探究心は禁忌に触れるようで、彼女も困惑するばかり。

どうやら管理者ですら巨大で意味不明な仕組みの一部でしかないようで、何が真実なのか、どう行動するのが正解なのか、主人公にわかろうはずもありません。ついに彼は「鷲の巣」を出るために運転手から車を強奪するのですが・・。

著者が主人公に託した現実感の喪失と強迫観念の凄まじさが、ひしひしと伝わってくる作品でした。意外にもラストでは救いへの期待もほのめかされているのですが、それも儚い期待にすぎないのかもしれません。

2019/2