りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015/6 ゆうじょこう(村田喜代子)

今月は、村田喜代子さんの迫力ある2冊がワン・ツー・フィニッシュ。なんと『蕨野行』以来、10年ぶりです。「東雲のストライキ」として話題になった、明治期の遊女たちの決起を描いた『ゆうじょこう』の主人公の少女は、自伝的小説である『八幡炎炎記』の登場人物と重なっているようです。
1.ゆうじょこう(村田喜代子)
明治36年、硫黄島から熊本の郭に売られてきた少女は「女紅場」で文字を習い、人間存在について思考をめぐらし始めます。イチの素朴な日記が綴るのは、彼女自身の成長過程であり、妓楼の日常生活であり、「東雲のストライキ」へと至る世相でもありました。人間として生きようとした遊女たちの、パワーに満ちた小説です。

2.八幡炎炎記(村田喜代子)
「製鉄の町・北九州八幡で敗戦の年に生まれ、事情あって祖父母を戸籍上の父母とする少女」といったら、著者自身のこと。主人公の少女ヒナ子の名字が「貴田」という著者の旧姓であることも、後に明かされます。本書は著者の自伝的小説の「第一部」なのでした。どことなく猥雑な活気に満ちた「八幡の町」に生きる、信心深く力強い女たちと、肝心な場面で脆さを露呈するダメ男たちの物語。誰もが少しずつ、溶鉱炉の炎のような情念を持っているようです。

3.お爺ちゃんと大砲(オタ・フィリップ)
「死んだはずの祖母がイタリアで生きていた」という謎は、第一次大戦中に祖父がとった奇妙な行動と結びついていました。チェコ人の祖父が開発した巨大大砲は、奥伊戦線のドロミテ山脈中の高地に据え付けられながら、一度も発射されることはなかったのです。メルヘンのように綴られる戦争も、結局は過酷なもの。巨砲のたどった運命は、どことなくチェコがたどった道筋とも似ているようです。



2015/6/29