りぼんの読書ノート

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シガレット(ハリー・マシューズ)

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ニューヨーク近郊に暮らす上流階級の男女13人の複雑な関係が、30年の時を往来しながら明かされていきます。「詐欺と絵画と変死」を巡る謎解きともなっていますが、主題は彼らの関係そのものでしょう。互いに愛し合い、恨み合い、依存し合い、傷つけあう恋人・夫婦・親子・姉弟・師弟たちの関係図は複雑です。著者は、自ら考案したアルゴリズムで作ったプロットを、8年かけて本書に仕上げたとのこと。一筋縄ではいかない小説になっています。

物語は、2人ずつ登場する人物たちの関係をめぐって進行します。中年のアランの浮気相手エリザベスは、かつて若かったオリバーを袖にしたことがあり、そのオリバーはポーリーンと結婚。娘フィービと理解しえないオーウェンはアランの保険金詐欺を見抜き、フィービの兄ルイスは美術評論家モリスにSM同性愛趣味に引き込まれ、モリスの見出した画家ウォルターを巡ってモリスの姉アイリーンとアランの娘プリシラが競い合い、ポーリーンの姉モードは実はアランの妻で、夫に浮気された後に張本人のエリザベスと・・。なんて目まぐるしい!

語り手の「私」とは誰なのか。ウォルターの傑作であるエリザベスの肖像画はどうなったのか。「葬儀」とは誰の死を意味しているのか。そして最初と最後に登場する謎めいたエリザベスは、誰とどのような関係を結んでいたのか。人物相関図を作成しながら読まないと混乱すること間違いなし! しかも、ラストで全ての謎が明かされるわけでもないという後味の悪さ!

主要な登場人物のひとりが著者自身であるならメタフィクション的な解釈が可能に思えるのですが、それは少々無理筋かもしれません。今どきの流行りのスタイルではありませんが、読者を選ぶ小説なのでしょう。

2013/10