りぼんの読書ノート

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孔子の空中曲芸(ダイ・シージエ)

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自ら文革時代に下放された経験を有し、文革の中の青春をテーマにした小説をフランス語で描いてきたパリ在住の作家が次に選んだのは、明王朝末期の皇帝を主人公に据えたファンタジックな艶笑譚でした。

明王朝滅亡の要因をつくったとされる第11代皇帝「正徳帝」は、4人の影武者を持っていたそうです。帝自身を含めて「五礼の君」と呼ばれた彼らは、あまりにもそっくりで皇后や側近でさえ見分けがつかなかったとのこと。

天文学者が発見した国の破滅の前兆を示すという新星を逃れて、影武者らとともに巨大な船で南方へと狩猟の旅に出た皇帝は、前代未聞の「黒い獣」を発見したとの知らせを受けるのですが、それは帝に真の破滅をもたらす凶報だったのです・・。

そもそも、この巨船が凄すきます。300人の宮女を娼婦に見立てて、船上で色街を再現したというのですから。そこで帝と影武者が行なっていたというのが「孔子の空中曲芸」! 謎のような言葉ですが、それは「愛の体位」のひとつなんですね(笑)。宮女たちは、さまざまな愛の体位のことを、「信心深い孔子」とか「赤子の孔子」とか「不精な孔子」とか「手押し車を押す孔子」とか「生き返る孔子」とか、隠語を用いて呼び習わしていたそうなんです。

一方で帝が信心していた道教に伝わる体位には、「一角獣の角」や「つがいの燕」や「翡翠の交わり」や「逆さに飛ぶ鶴」や「転回する龍」や「羽ばたく鳳凰」などの呼び名がつけられていたのですから、いい勝負。想像が及びません(笑)。

犀のつがいに持続時間の戦いを挑むナルシス虎の雌雄の物語や、放屁によって敗れた内丹術の物語、「黒い獣」からの移植手術など、艶笑モードたっぷりのエピソードを大真面目に書き連ねながらも、物語は悲劇に向かって進んでいきます。帝を襲った悲劇とは何だったのでしょう。そして「黒い獣」の正体は? たまにはこんな小説もいいですね。

2011/1