りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

烏金(西條奈加)

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金春屋ゴメスで「タイムスリップを使わない江戸時代SF」というジャンルを開いて「ファンタジーノヴェル大賞」を受賞した著者は、どうやら「時代小説作家」への転進を決めたようです。でも彼女は、時代小説に現代的な視点を持ち込んでくれました。

西條さんが選んだテーマは「江戸時代のBOP小説」。BOPとは「Bottom of the Pyramid」のことで、経済ピラミッドの底辺を構成する貧困層を対象としたビジネスのこと。金融関係ではバングラデシュグラミン銀行が始めた、無担保の小額融資であるマイクロクレジットが有名です。

因業な金貸し婆のお吟のもとに押しかけて勝手に手伝いを始めた浅吉は、借金で首が回らない借り手のところに乗り込んで、借り手がお金を返済できるような仕組みを作っていくのです。浪人者には職を世話し、安売り競争に敗れた八百屋には高級仕出屋への出入りを取り計らい、母親の世話をする孝行娘には母親仕込みの糠付けを八百屋で売ってもらうようにアレンジ。家格の維持費が嵩む武家に不用品の売却を迫るのは『武士の家計簿』みたいですけどね。

やがて浅吉は、泥棒集団の孤児たちや、ホームレスの女性たちを正業で自活させるようなマイクロクレジットビジネスを展開するようになり、きっちり利益をあげていくのですが、彼には秘密の目的がありました。ひとつは、遊郭に売られた幼馴染みのお妙を身請けすることなのですが、それだけではなくお吟婆さんと深い因縁も・・。

浅吉の新しい発想の源に「和算」があるというのは、納得できないけど、まあいいでしょう。カラスの相棒と信頼関係があるとの非現実感も許容範囲。人物描写が浅いためにいい場面で感動を強要される感じがするのも、書き込んでいけば克服できるはず。欠点も目に付きますが、「新感覚の時代小説」良かったですよ。これからも現代的な視点を失わずにいて欲しいものです。

ともに浅吉に助けられた、勝平・トミらの孤児たちと、武士の長谷川家の関わりを描いた姉妹作品の『はむ・はたる』も読んでみましょう。

2011/1