りぼんの読書ノート

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傭兵ピエール(佐藤賢一)

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宝塚の演目にもなった「ジャンヌ・ダルク秘話」的な物語です。佐藤賢一さんの初期の傑作でしょう。

英仏百年戦争の末期、貴族の私生児として生まれながら傭兵隊長となっていた無頼漢ピエールが雇われたのは、包囲されたオルレアンを救出に向かうフランス王太子軍。負け戦の続くフランスでは王家の威信は失墜し、出生の疑惑もあった王太子シャルルは即位もできないでいたのです。パリは既に失い、オルレアンの決戦に負ければ全国土を失いかねない所まで追い込まれていたシャルルが一縷の望みをかけたのは「神の声を聞いた」という聖女ジャンヌ・ダルク

軍議の場でジャンヌに出会ったピエールは彼女に心奪われますが、しょせん聖女など高嶺の花。それでも戦争に詳しいピエールはジャンヌを助けて奮闘し、オルレアン解放の奇跡が起こります。

ところでジャンヌはもうひとつの奇跡を起こしていました。娼婦を禁じるジャンヌに乗り込まれたピエールの傭兵隊は、戦場に乗り込む前に襲った町から略奪してきた娘たちを妻として扱い始めるのです。このあたりは爆笑シーンですが、それはまたランスでの戴冠式で神命を果たし終えながらも国王から戦闘継続を命じられたジャンヌを残して、ピエールが戦場から去らざるをえなくなった原因にもなりました。主な隊員たちが皆、妻とした娘たちの故郷で一緒に暮らしたがったのです。

しかし物語のクライマックスはここからでした。田舎町の守備隊長になって鬱々としていたピエールに届いたのは、イギリス軍に捕らえられてルーアン魔女裁判にかけられているジャンヌを救出せよとの密命。単身で敵地に潜入したピエールでしたが、火刑執行まで残された時間はあと1日。果たして傭兵と聖女の運命は・・。

「ピエールへの罰はジャンヌ」というオチも楽しいですし、読後感も素晴らしい作品です。もちろん、佐藤さんのことですから、ジル・ド・レー、リッシモン元帥、アラゴン家のヨランダ女后などの歴史的人物の考証もしっかりしています。

2012/12