りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

十二国記 ①月の影 影の海(小野不由美)

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長い出張の間に読みきってしまおうと思い、これまで未読だった「十二国記シリーズ」全巻を借り出しました。

長い物語は、ごく普通の女子高生の陽子のもとにケイキと名乗る男が現れて「・・見つけた」と呼びかけられるところから始まります。追手の異形の獣に襲われて考える間もないままに、月の影を抜けて影の海を潜り、異郷に流れ着いた陽子はケイキともはぐれてただひとり彷徨うことに・・。

ここから陽子を襲う苦難の数々は、他のファンタジーと比較しても凄まじい。災害をもたらす「蝕」とともに訪れた異郷人として役人に追われ、出会う者たちから裏切られ、妖魔と呼ばれる異形の獣からも襲われ続けるというのですから。それでも陽子は故国へ帰る望みを捨てず、「生」に執着し続けるのですが、こんな日々が続くと精神を病みますね。

彼女を救った半獣の友・楽俊にも疑いを向けて見捨てた陽子でしたが、そのことはいっそう彼女を苦しめます。そしてついに真相が明かされる時が来るのですが、それは陽子に途轍もない決断を迫るものだったのでした。そもそも普通の女子高生が妖魔などと戦えるのかという問題があるのですが、そのあたりは少々仕掛けを作ってあります。

十二国とは、黄海と呼ばれる不毛の荒地を中心とする内海の周囲を囲むほぼ方形の陸地に並ぶ9カ国と、外海に浮かぶ4カ国の総称です。各国の王は神の信託を受けた神獣・麒麟によって選ばれ、麒麟の補佐を受けて治世を行うのですが、もとは普通の人間にすぎません。王の資格を持つ者が選ばれるとはいえ、必ずしも善政を行えるとは限らないんですね。悪政を行えば麒麟は病み、妖魔は跳梁し、国は乱れて、民は苦しむのです。果たして陽子が果たすべき役割とは何で、彼女はどう決断するのでしょうか・・。

冒頭で陽子を「普通の女子高生」と述べましたが、彼女にとって現代日本は住みにくい世界だったようです。現世に居場所のない子が異世界で活躍する・・というよりルーツが異世界にあったからこそ現世で生きにくかったのでしょうが、このパターンはファンタジーの常道ですね。十二国の人名・地名や民衆の風俗は中国をイメージしたとのこと。それでもこのシリーズは優れているのです。トータルとして独特の世界観が形作られているのですから。

2012/12