りぼんの読書ノート

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国芳一門浮世絵草紙5 命毛(河治和香)

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幕末の浮世絵師、歌川国芳の娘・登鯉を主人公とした国芳一門浮世絵草紙シリーズ」がついに完結しました。第1巻侠風むすめの時代背景が天保の改革だったことを思うと、水野忠邦の失脚からペリー来航を経て安政地震で終わる本書まで20年以上の年月が過ぎているわけです。

はじめはおきゃんな15歳だった登鯉も、彫師の乃げんとの恋や、実の親である遠山金四郎が斡旋した田辺定輔という武士との見合話は過去のことになりました。魚河岸の顔役・伊勢屋卯之助こと新場の小安との大人の関係は続いているものの、嫁ぐ決意もつかないうちに病を得てしまっています。

そんな中、国芳の親友だった遠山金四郎が登鯉と親子の名乗りをあげることなく死去し、安政地震では国芳が倒れて絵筆を握れなくなったと思ったら、義母のおせいが突然死。果たして、登鯉は、国芳一門はどうなるのか・・という最終回ですが、明るい芽も育っていました。

「俺が死んでも二代を継ぐな」と言い続ける国芳に対して、高弟芳年は一門の水脈を次の世代に繋ぐ力量を見せ、後年の月岡芳年(米次郎)や、河鍋暁斎(周ちゃん)や、噺家円朝(小円太)という、維新後の東京で活躍する人物が弟子たちから育っていくのですから。その中で登鯉は一門を背負う決意をするのです。

登鯉が「永遠に残るものがある。消えていくものもある。自分が描いた浮世絵は残るのだろうか」と自問する場面がありますが、このシリーズが答えになっていますね。本書のタイトルの「命毛」とは筆の峰先の芯となり、生きた線を描くにはなくてはならない毛のことです。

近年まで「埋もれて」いた歌川国芳遠山金四郎との友情を軸に据えて、出生にいわくのある娘の登鯉を狂言回しではなくあえて主役に据えたこのシリーズは、読み物として素晴らしかっただけでなく、幕末期直前の江戸の風情を生き生きと描き出してくれました。この巻でも大山参りや地震後の鯰絵の流行などが紹介されています。

後書きによると著者は、このシリーズを書き上げる間に最愛の夫君を亡くしています。「私生活でもさまざまなことがあったこの4年間を振り返ると、寄り添うようにこのシリーズの一作一作があったようで、今になってみると感慨深く思い出されます」との著者の言葉で、このレビューを締めくくりたいと思います。

2012/12