りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢(ジョイス・キャロル・オーツ)

1938年にニューヨークで生まれた著者は、短編の名手であるだけでなく、ミステリ、ホラー、ファンタジー、ノンフィクション、児童書など、ジャンルを超えた作品を数多く発表しており、近年はノーベル文学賞候補としても名前があがっているとのこと。ホラー寄りの短編・中編からなる本書は2011年に、『ドラキュラ』の著者の名を冠したブラム・ストーカー賞を受賞しています。

 

「とうもろこしの乙女、ある愛の物語」

ネイティブ・アメリカンの生贄伝説に魅せられたジュードをリーダーとする13歳の女の子3人組が、美しい金髪の下級生少女マリッサを誘拐して地下室に幽閉。ジュードの目的は、いったい何なのでしょう。地下室の外では、マリッサを女手ひとつで育ててきたシングルマザーのリーアや、犯人の疑いをかけられた教師ザルマンの受難の物語が展開されていきます。狂おしくも救いを感じられる結末だったのに、ラスト1行が恐怖の余韻を残します。

 

「ベールシュバ」

放縦な女性関係を過去に持つブラッドも、今では糖尿病のしがない中年男。ある日彼にかかってきた電話の若い女性の声には聞き覚えがあり、下心を持って会いに行きます。しかし彼は復讐のために呼び出されたのでした。旧約聖書に登場する荒野を意味するタイトルは、オープンエンドの「その後」を予感させているのでしょう。

 

「私の名を知る者はいない」

9歳の少女ジェシカは、両親の愛を独り占めしたかのような生まれたばかりの妹に嫉妬を深めていました。不思議な力を持つネコと交感したジェシカは、赤ちゃんに対するネコの振る舞いを傍観するのですが・・

 

「化石の兄弟」

怪物的で悪魔的な兄は、虚弱で気弱な双子の弟に暴力を振るい続けます。2人の関係に最終的な決着がつくのは、2人とも年老いてからのことでした。華々しい生涯をすごしたものの晩年になって没落した兄が、弟が孤独に暮らし続けた生家に戻ってきたのです。

 

「タマゴテングダケ

「化石の兄弟」と相似関係にある双子物語です。狡猾で好色な兄は正直で奥手な弟を利用しまくり、弟は兄を軽蔑しながら心の中に殺意を育て続けていました。最後まで被害者であり続けた弟ですが、物語は皮肉な結末を迎えます。

 

「ヘルピング・ハンズ」

軍人だった夫を亡くしたばかりのヘレーネは、夫の遺品を持ち込んだ退役傷病軍人のためのリサイクルショップに持ち込みます。彼女の空虚な心はショップで働く帰還兵に惹き付けられてしまうのですが・・。現実を歪めてしまうほどに孤独な女心は、欺瞞の陰に潜む暴力性に気付くことができるのでしょうか。

 

「頭の穴」

裕福なご婦人方を相手にする美容整形外科医のルーカスは、中世の疑似科学を信じ込んだ患者の要請で、頭蓋穿孔手術を引き受けます。しかしそれはスプラッター的な破局に至る序章だったのです。

 

2023/11