アメリカ南部にあったという肌の色の薄い黒人ばかりが住む小さな町は、矛盾に満ちた場所でした。白人に憧れながらも、決して白人になれないことを知っている者たちが、人種の超越を夢想していたのです。そんな町から自由を求めて都会を目指した、白い肌を持つ16歳の双子を待っていたのは、どのような運命だったのでしょう。
それから10年後の1978年、より多くを望んでいた姉のデジレーは漆黒の肌を持つ娘ジュードを連れて、失意のもとに帰郷します。しかしおとなしかった妹のステラは、その何年も前に姉の前からも姿を消していました。さらに10年後、ロサンゼルスの大学生となったジュードは、思いもよらない場所で母そっくりの白人女性と、女優を目指しているという彼女の娘ケネディと出会います。外見も性格も対照的なジュードとケネディは親交を結ぶのですが・・。
黒人が白人に成りすます行為は「パッシング」と呼ばれ、両方の陣営から疎まれていたようです。小説の題材ともなっており、多くは悲劇的な結末を迎えています。しかし本書の登場人物たちは、激しい苦悩と葛藤を抱え続けているものの、軟着陸に成功しているようです。このために著者は、対照的な人生を歩んだ2人の女性に、同一性を内包する双子という属性を与えたのでしょう。医師を目指すジュードの才能は叔母ステラから、女優を目指すケネディの才能は伯母デジレーから引き継いだという交差的な関係も、カラーラインに分断されないものの存在を示しています。
もちろん本書は、安易なハッピーエンドを許す物語ではありません。決定的な悲劇は回避したようですが、それぞれの問題は進行形で存在し続けています。アメリカ社会における最大の問題が「分断」となった2016年以降、本書の登場人物たちや後の世代の者たちがどのように生きているのか、数世代に渡るサーガとして読んでみたいものです。
2023/10