りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

三十の反撃(ソン・ウォンピョン)

1988年のソウルオリンピックの年に生まれた女の子の名前で、一番人気だったのは「ジヘ(知恵)」だったとのこと。名前のせいではないけれど平凡な人生を歩んできたキム・ジヘは、気が付けば、世の中にも会社にも期待することをあきらめてしまった、30歳の独身女性になっていました。大学を卒業しても大企業の面接をに落ち続けて非正規職にしか就けず、ソウル郊外の半地下の部屋に住み、誰にもわかってもらえない息苦しさと不満を抱えながらも、自分を取り囲む理不尽な世界に声をあげることなど考えもできなくなっていたんのです。

 

そんなジヘの生活を変えたのは、不思議な同僚との出会いでした。同年代の男性であるギュオクは、世間に対する不満を隠そうともせず、不当と思えることに一針を刺すことを「遊び」のようにやってみたいというのです。人混みの中でセクハラ教授を罵倒し、学生たちの才能を搾取した芸術家のスプレーアートを塗りつぶし、居眠り国会議員にタマゴを投げつけ、他人の脚本を堂々と盗作した映画の舞台挨拶で騒動を起こす。世の中には、悲しむべきことではなく、怒るべきことがいかに多いことか。

 

彼女たちのささやかな反撃は、簡単に潰されてしまいます。しかし不条理に抵抗しなければ何も変わらない。間違っていることを間違っていると言うだけでも少しは世の中が変わる。自分の特別さを力を込めて叫ばなくても、世界でひとつだけの存在であることに変わりはない。なんだかSMAPの曲のような結論ですが、生きる喜びを見出したジヘの物語は爽やかでした。

 

2023/11