りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ワタクシハ(羽田圭介)

イメージ 1

オーデション番組の企画で選ばれ、高校生でギタリストとしてメジャー・デビューを果たした山木太郎でしたが、栄光も束の間でバンドは解散し、預金も底をつきそうに。大学3年を迎えた太郎は、「シューカツ」に向けて慌ただしく動き出す周囲の雰囲気に押されるようにして「就職戦線」に身を投じます。

はじめは「元有名人枠」で内定は楽勝と思い、冷やかし半分で受験した太郎でしたが、申し込んだ一流企業から次々と落とされていく中で、焦りが生まれてきます。そんな中で、バンド復活という話も起きてくるのですが・・。

主人公は「元有名人」ですが、これは「シューカツ」の厳しさに対する認識の甘さを際立たせるための設定ですね。学生にとって「シューカツ」が意味するものを小説のなかで明らかにすることが著者の狙いなのでしょう。

「受ける側も選ぶ側も曖昧な基準で動いている就活戦線」の中で、「選ばれる側」に居続けることは、多くの学生にとって「社会の差別に初めて直面する機会」であるというんですね。そして「単純でない世の中の全ての事を解決する軸」などありえず、「変化するたびに思考することが必用」との認識に主人公は至ります。そして登場人物に「現実の厳しさを全てコントロールできるなんて思わせるような教育は間違っている」とまで言わせるのですが、それはちょっと言い過ぎかも・・。

太郎は結局、ギタリストの道を諦めて地方の会社に就職するのですが、恋人の恵はキー局のアナウンサー試験を落ち続けても地方の系列局に入社して夢を叶えますし、将来を冷静に見ていたモデルの林英美は映画女優へと変身を遂げるていきます。「夢は叶えるもの」でもあり「早く諦めるべきもの」でもありそうです。だから難しいのですが・・。

2012/3