りぼんの読書ノート

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碧奴(蘇童)

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「新・世界の神話シリーズ」に中国から加えられた作品は、夫の死を悼む涙で万里の長城を崩壊させたという「孟姜女伝説」を幻想的に再構成した小説です。

著者はまず、女たちが泣くことを禁じられた村を作り出します。国王と仲違いして配流された叔父の死に際して涙を流した村人が処刑された後、女たちは泣くことをやめ、密かに全身から涙を流すようになったというのです。処刑された者たちは白い蝶に生まれ変わりました。

ヒョウタンの生まれ変わりとして育った碧奴は、桑の木の生まれ変わりの男に嫁ぎますが、夫は遠い北国で長城を築く労役に取られて姿を消してしまいます。唯一の財産の桑の木を売って夫に届けるための冬服を買い、自分で掘った墓にヒョウタンを埋めて千里の道を北に向かった碧奴は、生きて帰郷することなど、もはや考えてもいません。

しかし、彼女の旅は想像を絶して苛酷なものになります。鹿人の少年たちに夫の冬服を奪われて囚われ、死者に売られて棺桶に繋がれ、国王を狙う刺客の仲間と間違えられて捕えられ、国王の死によって起きた暴動に巻き込まれ、死にたくても死ねないままに、最後には両足とも動かなくなって、這って長城へと向かいます。碧奴が這った跡は全身から流した涙によって水路となり、失われた息子を探す旅の途上に倒れて盲目のカエルになった母たちが彼女の後を追いかけます。

しかし、ついにたどり着いた長城で待っていたのは最後の悲劇でした。そして、生まれて初めて両目から涙を流して泣き崩れる碧奴が起こした奇跡も、決してハッピーエンドをもたらすものではありません。神話と幻想が入り混じる世界を貫く女性たちの哀しみは、時代も国境も越えて共通のものなのでしょう。

2012/3