りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-25から1日間の記事一覧

火を喰う者たち(デイヴィッド・アーモンド)

1960年代のイギリスの貧しい田舎町。中学校試験に合格したボビーの生活と視界が一気に広がる。それは、今まで意識していなかった故郷・家族・隣人の貧しさを意識しはじめることでもありました。 仲良しの女の子エイルサは、同じ学校の試験に合格していな…

覘き小平次(京極夏彦)

『嗤う伊右衛門』についで古典怪談を甦らせた意欲作。「幽霊役者が自分を殺した男と裏切った妻を祟り殺す」怪談を、「生者が主役である愛憎劇」へと見事に変貌させてくれました。 愛憎も理解できず、生に執着することもない小平次の生活は、押入れ棚に引きこ…

パイロットの妻(アニータ・シュリーヴ)

「新潮クレストブックス」には高い評価を置いているのですが、これは、「ハーレクイン」と「イングリッシュ・アドベンチャー」を足して割ったような内容だったかな。 深夜に届いたのは、夫の操縦する飛行機が墜落したとの知らせ。悲しみに打ちひしがれる間も…

オーデュボンの祈り(伊坂幸太郎)

伊坂さんのデビュー作は、「不条理ミステリー」。 仙台沖にありながら150年間「鎖国」をしている孤島が舞台。そこで起きるのが、未来を予知するカカシの「殺害」事件。そこに住んでいるのは、本当のことは決して言わない画家や、島の規律を維持する者とし…

オルタード・カーボン(リチャード・モーガン)

27世紀。死はもはや永遠ではない。人間の心はデジタル化され、メモリーに記録されて脳髄に埋め込まれる。肉体が死んでもメモリーは保管されて、再生の時を待つことになり、バックアップのないメモリーが破壊された時に「真の死」が訪れる。こういう世界で…

平原の町(コーマック・マッカーシー)

国境三部作を締めくくる作品。第一部「すべての美しい馬」のジョン・グレィディと、第二部「越境」のビリーが、カウボーイ仲間として暮らす牧場。 馬の扱いにかけて天性の才能を持つ19歳のジョン・グレイディは、牧場主からも、カウボーイ仲間からも一目を…

フェイク(五十嵐貴久)

『安政五年の大脱走』は映画「大脱走」へのオマージュでしたが、本書もやはり映画「スティング」に捧げたものだそうです。 暴力団による地上げから老人ホームを守る区議を陥れた罠は、卑劣にも彼の息子をダシに使ったものでした。主人公の探偵と、彼の親友の…

プリズンホテル夏(浅田次郎)

浅田次郎さんの痛快爆笑任侠小説です。極道小説作家・木戸孝之介は、叔父さんからホテルに招待されます。ところが叔父さんがオーナーになったこのホテル。番頭さんには小指が無く、バーテンは元ヒットマン。通称「プリズンホテル」といって、客は任侠団体オ…

退屈姫君海を渡る(米村圭伍)

この人の「お気楽時代劇」はクセになるようです。前作で、藩をつぶそうとアラ探しをする田沼意次を、あろうことか、お庭番や、くのいち少女まで味方に引き入れてぎゃふんとさせた「めだか姫」の再登場。 相変わらず江戸の藩邸で退屈を持て余す姫にもたらされ…

蒲公英草紙~常野物語(恩田陸)

不思議な力をもちながらひっそりと暮らす「常野」の人々。前作『光の帝国』は、「常野」の色々な人たちを断片的に紹介し、「いよいよ大きな出来事が起こるのでは?」と思わせた所で中断。 シリーズ2作目の本書もまだ、本編開始前の「長い序章」かな。20世…

戦国自衛隊1549(福井晴敏)

半村良さんの名作『戦国自衛隊』を、福井さんがリライトした作品です。 平成の世の中にブラックホールが出現。どうやら、5年前の事故で戦国時代にタイムスリップした自衛隊が歴史を変えてしまって、今の「現代」は消滅しつつあるようです。彼らを救出するた…

ブラックローズ(ナンシー・A・コリンズ)

主人公は、ヴァンパイアの父と人間の母の混血児。ヴァンパイアの呪いと力を持って生まれながら、母をなぐさんだ父に恨みを持つヴァンパイア・ハンター。まるで「デビルマン」のようですね。 彼女は、アメリカの盟主を争う2つの一族が抗争をはじめた時に登場…

星を継ぐもの(ジェイムズ・P・ホーガン)

1970年代を代表する「ハードSF」の傑作だそうです。「ハードSM」でも、「ハードゲイ」でもありません(笑)。サイエンスの部分をじっくり書き込んだフィクションです。 近未来のある日、月面調査員が宇宙服をまとった死体を発見。なんとこの死体は死…

坊ちゃん忍者幕末見聞録(奥泉光)

漱石の「坊ちゃん」を何度も愛読したという著者が、「坊ちゃん」っぽい朴訥・不器用キャラを主人公にして、「坊ちゃん」っぽい文体で書いた、オマージュ小説です。 庄内藩で妙な忍術を仕込まれた松吉が、何故か医者を志し、攘夷にかぶれた幼馴染の寅太朗とと…

憲法はまだか(ジェームズ三木)

自民党圧勝で憲法改正も議論対象になりつつあるようですが、本書は、数年前に明らかにされた日本国憲法誕生の『秘話』ストーリー。 敗戦後、GHQの指示によって日本政府は明治憲法の改正に着手。ところが、政府系の検討機関が出した『改正案』はどれも保守…

陰陽師~太極ノ巻(夢枕獏)

このシリーズは、どろどろの怨念が「女を鬼に変える」ような話が多い中で、この巻はサラッとした内容で、マンネリの良さを感じさせてくれます。 安部清明の親友・源博雅のキャラがいいですね。「木の箸を使うのは、木に『箸』という呪をかけているのだ」など…

タイムトラベラーズ・ワイフ(オードリー・ニッフェネガー)

愛した人がタイムトラベラーだったら、どうするだろう。それも、自分の意志でタイムトラベルするのではなく、何かのはずみで、過去や未来に飛んでしまう病気だったら。 クレアは、6歳のときに未来から来たヘンリーと出会い、18歳までに152回も出会って…

おんみつ蜜姫(米村圭伍)

この本こそが、ピデコお勧めの「なんちゃって江戸もの」でした。『退屈姫君伝』がおもしろかったので、こっちも読んでしまいました。 「退屈姫君」が活躍したのは9代・10代将軍に仕えた田沼意次の時代で、こっちは8代の徳川吉宗だから、ちょっと前になり…

りかさん(梨木香歩)

『からくりからくさ』の主人公「蓉子」が少女時代に経験した、不思議な人形「りかさん」との交流を描いた本。「リカちゃん人形」が欲しいとせがんでいたのに、市松人形の「りかさん」が来たらがっかりしますよね。でも「りかさん」は、ようこと心を通わせる…

眠り猫(花村萬月)

花村萬月といえば、セックスと暴力の作家。西原理恵子なんかは「読むだけでトラウマになる」と言ってました。私も『ぢん・ぢん・ぢん』や『♂♀(おすめす)』を読んだ時は、その凄まじさに唖然として、しばらく気分が悪くなったほど。 人体を「モノ」として扱…

ひとは化けもんわれも化けもん(山本音也)

主人公は井原西鶴。元禄時代の草紙作者で、紫式部以来のストーリーテラー。ところが近年、西鶴の自作はデビュー作の「好色一代男」だけであり、他の「好色五人女」、「世間胸算用」、「日本永代蔵」などのヒット作は名前を貸しただけではないかとの研究もさ…