りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

火を喰う者たち(デイヴィッド・アーモンド)

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1960年代のイギリスの貧しい田舎町。中学校試験に合格したボビーの生活と視界が一気に広がる。それは、今まで意識していなかった故郷・家族・隣人の貧しさを意識しはじめることでもありました。

仲良しの女の子エイルサは、同じ学校の試験に合格していながら、亡き母に代わって家事を引き受けて進学はあきらめている。労働者階級の子弟が通う学校に行くようになったジョゼフが、刺青を入れるようになったり、粗暴な振る舞いをするのも悲しい。

父とビルマ戦線で一緒だったマクナルティは神経を病んで大道芸人になり、「火噴き芸」を見せて廃屋に住んでいる。それは、一歩誤ると、火を吸い込んで肺を焼いてしまう危険な芸。大人たちは、米ソのキューバ危機で核戦争の予感に震え、造船所で職人として働く父は病院から検査が必要と告げられる。

この本では「奇跡」は起こりません。強いて「奇跡」と言えるとしたら、親しみを覚えていた故郷がみずぼらしくて、やるせないものに見えてきたにもかかわらず、故郷や隣人に対する愛を失わないボビーの心でしょうか。

身近な不安から世界の未来に対する不安までを一気に感じて、自分の弱さに悩みとまどい、それでもメソメソせずに成長する少年の心を素直に描いた、傑作だと思います。

2005/10