りぼんの読書ノート

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覘き小平次(京極夏彦)

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嗤う伊右衛門』についで古典怪談を甦らせた意欲作。「幽霊役者が自分を殺した男と裏切った妻を祟り殺す」怪談を、「生者が主役である愛憎劇」へと見事に変貌させてくれました。

愛憎も理解できず、生に執着することもない小平次の生活は、押入れ棚に引きこもって、わずかの隙間から世間を覘く毎日。生きながら死人のような小平次に相対して苛立つ者は、彼を鏡として自分の嫉妬、猜疑、怒りを見てしまう。小平次を嫌って苛めながらも別れようとしないお塚も、お塚に横恋慕して小平次を罠にはめることになる多九郎も、お塚が昔恋した「役者絵」のモデルで女形の歌仙も・・。

小平次と同じ虚無を覘きこみながら、無差別殺人という正反対のアクションを取る運平を登場させることによって、作者の意図はより明確に現れます。運平が「反射する鏡」なら、小平次は「虚を写す鏡」。

ラスト、追い込まれたお塚が渾身の力で叩き壊すのは、「合わせ鏡」によって自分が見ていた虚像なのでしょう。この種の話としては、スッキリするカタルシス。名手による、完成度の高い一作です。『巷説百物語』の又市や治平を脇役として使うなんて、心憎いほど。

2005/10