りぼんの読書ノート

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ひとは化けもんわれも化けもん(山本音也)

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主人公は井原西鶴元禄時代の草紙作者で、紫式部以来のストーリーテラー。ところが近年、西鶴の自作はデビュー作の「好色一代男」だけであり、他の「好色五人女」、「世間胸算用」、「日本永代蔵」などのヒット作は名前を貸しただけではないかとの研究もされているそうです。

本書は「その謎を解く異色ミステリー」との触れ込みですが、「好色一代男」が書かれるまでの物語として読んだほうがいいかな。

西鶴はもともと俳諧師だったそうです。「一晩に万句を読む」という派手な「談林派」に属していましたが、跡継ぎに指名された松尾芭蕉は、なんと師匠を否定して、俳諧に「風雅のまこと」という新しい風を持ち込みます。

西鶴は「風雅がなんぼのもんや」と、ライバル心を燃やします。「ひとはみな化けもんや。ひとがいちばん面白いのや」として、浮世草紙という、新しいジャンルを切り開いていくんですね。エンターテインメント小説家の元祖になるわけです。

西鶴がその境地に至るまでの道のりは、それこそ紆余曲折。大店から勝手に飛び出し、版元からの前借りで遊興。妻と2人の子を病で亡くし、残った末っ子は目が見えない。後添えにと想いを寄せたモト遊女には、出奔されてしまう。そもそも「草紙なんて下等なもの」と蔑んでいた西鶴が、銭や色恋に右往左往する自分の人生の面白さに気付くあたりが、この小説のポイントですね。

古文を関西弁で読み下したような文体は、読みにくいけど味わい深い。西鶴の草紙も、このような文体だったんですよね・・たぶん。

2005/10(島原の温泉旅館にて)