りぼんの読書ノート

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オルタード・カーボン(リチャード・モーガン)

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27世紀。死はもはや永遠ではない。人間の心はデジタル化され、メモリーに記録されて脳髄に埋め込まれる。肉体が死んでもメモリーは保管されて、再生の時を待つことになり、バックアップのないメモリーが破壊された時に「真の死」が訪れる。こういう世界では、「富」は決定的な意味を持ってきます。莫大な費用がかかる、肉体の保存・入手、クローン化や、メモリーのバックアップができるのは、一握りの特権階級。

モリー「保管刑」に処せられていた犯罪者タケシ・コヴァッチは、数百年生き続けている大富豪の自殺の真相を究明することを条件に、突如見知らぬ男にダウンロードされて釈放されます。彼が究明することになるのは、肉体的な不死を得ても変わらない「人間の本質」が犯した罪。

こういう世界で生や死や肉体に関する感覚はどう変わったのか、何が変わらないのかを描きだすことが、作者の想像力なのでしょう。もちろん、「変わらないのは愛」なんて陳腐な答えじゃないですよ。

肉体は単なる「カーボン」として使い捨ても可能な時代において、逆説的ながら「肉体へのこだわり」が大きな意味を持ってくる。容姿がすっかり変わってしまった相手を愛することの意味や、かつて愛した人の肉体を持つ「他人」との関係が問われる世界。どうやら、作者の想像力は成功しているようです。ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』や、ギブスン『ニューロマンサー』の正統な後継者としての地位を確立したのかもしれません。「Matrix」のプロデューサーが映画化するようですよ。

2005/10