りぼんの読書ノート

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東福門院和子の涙 上(宮尾登美子)

かつて著者は「歴史ものは苦手」と語っていたとのことですが、本書と『天璋院篤姫』によって、それまでの男性作家による歴史小説とは異なるジャンルを打ち立てたように思えます。この2冊はどちらも女性の視点から歴史の大きな流れと自分自身の生き方を交差させた作品であり、21世紀以降はむしろ主流になっていくのですから。著者の「篤姫」をはじめとして女性を主人公に据えた大河ドラマが増えていることも、そのことを裏付けているようです。

 

東福門院和子とは、徳川2代将軍秀忠の末娘であり、徳川家から唯一皇室に嫁いだ女性です。家康からの強い働きかけによって1614年、8歳の時に後水尾天皇への入内宣旨が下されるものの、大坂の陣、家康の薨去、、後陽成院崩御などが相次いだために、実際にお輿入れが成ったのは6年後のこと。この間、後水尾天皇が女官との間に皇子を得ており、女官一族が皇子ともども宮中から追放処分となったことも、和子の入内に暗い影を投げかけました。

 

本書の視点人物は生涯和子に仕えた女官・今大路ゆきですが、和子の生母であるお江与の方の思い出から語りが始まることは、本書のテーマとは無縁ではありません。お市の方を母に持ち、乱世を強く生き抜いたお江与が夫の秀忠と生涯仲睦まじく添い遂げたことは、和子の結婚観に大きな影響を与えたのでしょう。そして御水尾天皇との関係は、それとは似ても似つかぬものとなったのですから。

 

上巻では和子の入内までが、たっぷりと時間をかけて綴られます。女御から皇后へ、そして国母ともなる和子の御所での日々が描かれる下巻では、和子が人知れず流した涙の意味が明らかになっていきます。

 

2023/11