りぼんの読書ノート

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赤刃(長浦京)

リボルバー・リリーが』原作・映画ともに面白かったので、著者のデビュー作である本書も読んでみました。大正デモクラシー時代の東京で陸軍を動員させるに至ったリリーの物語と、徳川家光の時代に江戸市中を戦場と化した殺戮集団を登場させた本書の物語は似て非なるもの。しかし戦いのエンターテインメント性を前面に打ち出したこと以外に、あえて共通点を探す必要などないのでしょう。

 

戦国の世も遠くなって人々が平和ボケし始めた時代、戦乱の記憶などもはや一部の老人たちにしか残っていません。しかし平和な世に飽き足らない老人たちが反乱を起こすのです。戦国の英雄であった元津藩士赤迫雅峰とその一党が、100人を超える犠牲者を出した辻斬りで奉行所を翻弄し、大名や有力旗本の世子たちを誘拐して幕閣を嘲ります。幕府が送る刺客は次々と返り討ちにあい、老中・松平伊豆守は切り札となる「掃討使」として旗本の小留間逸次郎を任命します。赤迫と同様の役目に就いていた祖父に育てられた逸次郎もまた、若年ながら戦乱の気概を継ぐものでした。

 

かくして江戸の町で両者の死闘が繰り広げられるに至るのですが、逸次郎も赤迫も剣豪でありながら、その勝負は正々堂々とした一騎打ちではありません。要塞化された屋敷への火矢攻めや、飛び道具や目くらましや、人質や闇討ちも登場する戦闘集団の闘いが繰り広げられていくのです。超人的な登場人物たちによる集団戦という点では、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」や、横山光輝の『伊賀の影丸』や、石森正太郎の『サイボーグ009』、さらには子供たちに人気の「戦隊もの」に通じる点があるように思えます。

 

2023/11