りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

待ち合わせ(クリスチャン・オステール)

直前に読んだ『口ひげを剃る男』もそうでしたが、妄想に支配されている男の心情や行動を描くことにかけては、フランス文学は群を抜いているように思えます。

 

主人公は3か月前に恋人のクレマンスを別れたものの未練たっぷりの男。彼女と縒りを戻すために、「待ち合わせ」を仕掛け続けています。しかしこの「待ち合わせ」は妄想に過ぎません。「場所と時間を伝えたら来てもらえない」ことがわかっているので、何の連絡もしていないのです。待っても来てはもらえない苦しみも恨みも感じないで済むように、ただひたすらに偶然の出会いを信じてカフェで待つばかり。

 

しかしそんな男の生活に意外な変化がもたらされます。動物園の飼育係をしている友人のシモンが妻のオドレイに出て行かれてしまったので、彼の家で一緒に妻の帰りを待って欲しいというのです。。しかもオドレイから、彼に相談したいので待ち合わせをしたいと連絡が入ります。いかに友人のためとはいえ、クレマンス以外の女性を待つことに、彼は耐えられるのでしょうか。そしてオドレイの真意はどこにあるのでしょうか。

 

物語は意外な展開を見せて終わりますが、これら全てが彼の妄想にすぎないという可能性は捨てきれません。ラストでようやく姿を見せるクレマンスとの出会いは、一言の会話もなく終わりそうですが、偶然の出会いは彼女との「待ち合わせ」がようやく終わったことを意味するのでしょうか。これは主人公が妄想の支配を脱するまでの過程を描いた物語と理解したいのですが、いかがでしょう。

 

2023/11