りぼんの読書ノート

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フォンターネ 山小屋の生活(パオロ・コニェッティ)

北イタリアの山岳地帯を舞台にして2人の少年の友情と葛藤を描いた『帰れない山』の著者が、その3年前に自らの心情を率直に綴った作品です。

 

1978年にミラノで生まれた著者は20代で作家デビューするほど早熟の天才だったようです。しかし30歳の頃には仕事にも恋愛にも人間関係にも行き詰ってしまい、創作の源泉も枯渇したと感じたとのこと。圧倒的な虚無感に襲われた著者は、「敢えて孤独を引き受ける覚悟」で、たったひとりでまだ雪の残る早春の山に籠ります。そこは標高1900mにあるアオスタ渓谷の廃村「フォンターネ」。著者は「源泉」とか「給水所」という意味を持つ地名に心惹かれたのかもしれません。

 

大自然に身を委ねた著者ですが、孤独は簡単には身に馴染んでくれませんでした。森の中の小屋はまるで鏡の家のように、孤独な著者の心を増殖していきます。結局のところ、著者の心を満たしていったのは、牛飼いや山小屋の男たちなど、素朴な山の男たちとの交流だったようです。「人恋しくてたまらなくなる」心情を自重しながらも率直に綴るあたりは、好感の持てる正直さですね。季節がめぐり、秋になって牛たちも山を下る頃、著者の心は満たされ、ふたたびペンを持てるようになったようです。

 

こうして生まれたのが本書であり、世界的ベストセラーとなった『帰れない山』であり、その後も続く「山をテーマとする作品群」だとのこと。煩わしい人間関係を癒してくれるものは、結局のところ、素朴な人間関係なのかもしれません。著者が父親と不和であったように前著で示唆されていましたが、山小屋を数日間訪れた父親と無言で和解するような場面も印象的でした。

 

2022/12