りぼんの読書ノート

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小説火の鳥 大地篇上(桜庭一樹)

手塚治虫のライフワーク「火の鳥」の未完作「大地篇」の構想を下敷きにして、新たな物語を創り出すという発想が凄い。その書き手に桜庭一樹を選んだという企画も凄い。まるで不死鳥のように、手塚治虫が生み出したキャラクターたちに、新たな生命が吹き込まれたのです。

 

主な舞台は1938年の中国大陸ですが、まず登場人物を紹介しておきましょう。カッコ内は手塚作品におけるキャラクターであり、手塚治虫特有の「スターダムシステム」が、効果的に使われています。主人公にあたるのは、正反対の性格を持つ2人の兄弟でしょう。野心的な関東軍少佐の兄・間久部緑郎(ロック)と中国共産党に共感する純粋な弟・正人(『火の鳥未来篇』の山之辺マサト)。新興の三田村財閥の令嬢で緑郎の妻とまる麗奈(『ブラックジャック』の異母妹・小蓮)と、財閥総帥の要造(レッド公)。「火の鳥」シリーズの常連である猿田博士。

 

清王朝の再興を目論んで男装の麗人スパイとなる川島芳子(『三つ目が通る』の和登千代子)と、上海マフィアのスパイのルイ(サファイア姫)。要造の友人で天才工学博士の田辺保(ブラックジャック)と、ウイグル語を話す謎の美女マリア(『火の鳥未来篇』のタマミ)。これでけでもワクワクしてきますが、そこに桜庭一樹特有の、硝子、雪崩などの名前を持つ者や、東条英機石原莞爾山本五十六などの実在人物がからんでくるのです。

 

シルクロードの失われた都・楼蘭の遺跡に生息するという伝説の「火の鳥」の調査隊として、緑郎、正人、猿田、芳子、ルイ、マリアが派遣されるところから物語が始まります。「火の鳥」の発見が、泥沼化しつつある日中戦争の局面を打開することを期待して、関東軍と三田村財閥が目論んだ調査でしたが、そこで明らかになったのは、驚天動地の事実でした。マリアは400年以上も前に生を受けた楼蘭の姫君であり、「火の鳥」調査隊は、過去に何度も試みられており、その度に「火の鳥の首」が持ち帰られたというのです。これはいったいどういうことなのでしょう。

 

上巻の物語は三田村要造の青年時代に遡っていくのですが、人物紹介だけで長くなりすぎました。続きは下巻のレビューに書き記すことにしましょう。

 

2022/12