りぼんの読書ノート

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エウロペアナ(パトリク・オウジェドニーク)

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「20世紀史概説」と副題のつく本書は、コーネルの箱を思わせる作品です。雑多に見える既成のイメージをひとつの箱に閉じ込めた結果が、断片からは想像もできなかった総体として芸術へと昇華されたコラージュ作品として仕上がっているのです。

ノルマンディーでの戦死者の合計身長が38キロになるという冒頭の叙述から、著者独特の世界がいきなり炸裂。「世界大戦」「ホロコースト」「宗教」「ファシズム」「共産主義」「フェミニズム」「相対性理論」などの、20世紀を象徴するキーワードが、「ブラジャー」「マスタード」「バービー人形」などという世俗的な言葉と交差していきます。

第一次大戦塹壕戦で、ドイツ軍とイギリス軍がよく訓練された犬を介して、タバコとコニャックなどの互いの不足品を交換していたなどというのは微笑ましいエピソード。1914年の発売開始時には女性をコルセットから解放すると言われたブラジャーが、1968年のフェミニズムを訴えるデモの際には女性抑圧の象徴と扱われたのは皮肉な展開。一方で、第一次大戦中のトルコによるアルメニア人虐殺を「ホロコースト」と認めていない国は、トルコとイスラエルなどという文章にはドキッとさせられます。

しかし、どこまでが史実で、どこからが噂話にすぎないのか。本書の一番怖い点は、記録、実話、逸話、学説、噂話、スローガン、デマなどを並列に置いてしまったことかもしれません。ほんの半世紀前のことすら、政治的プロパガンダのせいで事実認定が難しくなっているという現実に、私たち日本人は直面していますので。

2014/11